【2025】第1回・サピックスオープン(6年) 国語B[大問2]物語文を解説

サピックスオープンの結果が出ましたね。
長時間の過酷な模試でしたが、結果はいかがでしたでしょうか。模試は結果が出てからの振り返りが大切です。説明文よりも正答率の低かった物語文を解説していますので、参考になさってください。

[大問2]物語文『天井裏の時計』(平野啓一郎) 文章の概要

物語のあらすじ(要約)

コロナ禍をきっかけに東京から九州へ移住することになった亮一と聡実の夫婦。彼らが購入した古民家のリフォーム中、天井裏から一本の女性用腕時計が見つかります。それは前の家の持ち主の少年時代の記憶にまつわるもので、彼が正直に返せなかった幼き日の後悔と長年向き合えずにいた象徴でした。やがて時計は本来の持ち主へ返され、かつて失われた「時間」が再び動き出します。そして、夫婦もまた、それぞれの心に抱えていた静かな距離を越え、語り合うことができたのです。

登場人物とその特徴

  • 亮一(りょういち):主人公。時計に対して違和感を覚えつつも捨てられず、真実に向き合う姿勢を見せる。
  • 聡実(さとみ):亮一の妻。時計に不気味さを感じながらも、過去に思いをはせる感受性がある。
  • 売主の男性:古民家の前の持ち主。子どもの頃の最悪感を抱えていたが、時計の発見をきっかけに謝罪し、過去を乗り越える。
  • 保育士:売主の少年時代に大切な時計を預けた女性。穏やかで思いやりのある人物。

難しい言葉・重要語句の解説

  • 疲弊(ひへい):ひどく疲れて弱ってっしまうこと。
  • リモートワーク:自宅などで行う仕事(在宅勤務)。
  • 顕末(けんまつ):物事の終わり、結末。ここでは物語のしめくくり。
  • 旧友(きゅうゆう):昔からの友だち。

心情の変化とその描写

  • 売主の男性は「ウソをついたこと」に苦しんでいたが、時計を返したことで過去を清算することができた。
  • 時計が戻ったことで、保育士とその父親も深い喜びを得る。
  • 亮一と聡実の関係は悪化していたが、時計を通じて語り合う時間を得て、心の距離を縮める。

記述問題解説 問2・問4・問5

(問2)―線②「ずっと捜していた」とありますが、「男性」がこの時計をずっと捜していたのはなぜですか。

■(問われていること)を確認する
この問題で(問われていること)は「なぜ」という部分です。
物語文で理由を答える問題は、心情を読みとることが求められる場合が多いです。売主の男性が時計を探している理由を心情で答えることを意識しましょう。


■(問われていること)にできるだけ短く解答し[記述の核]をつくる
記述問題のコツは、(問われていること)にできるだけ短く解答することです。
売主の男性の保育士に対する心情を答えることはできるでしょうか?

(P7・13行目~)売主は保育士の時計を天井裏に隠してしまい、その時計を見つけることができなかった。
(P8・ 2行目~)不安定な生活が続き、時計を返さなかったことが人生の間違いの始まりだと思うようになった。
(P8・ 9行目~)時計が見つかったことは大きな謝罪のチャンスだと思った。

上記の流れから、保育士に対して「罪悪感を抱いていたから」「申し訳ないと感じていたから」という心情語で解答できると良いでしょう。心情の原因をつけ足し、[記述の核]を完成させます。

[記述の核] 保育士に時計を返さなかったことを申し訳ないと感じていたから。


[記述の核]に文をつけ加え、記述を完成させる
[記述の核]だけでは文字数が足りないので、前半に文をつけ足して記述を完成させましょう。

本文に戻ってつけ足せる要素となる文を探すと、
(P8・ 2行目~)「不安定な生活が続き、時計を返さなかったことが人生の間違いの始まりだと思うようになった」という部分も売主が時計を捜していた理由になると考えることができます。

字数が足りない場合は要素不足と考え、要素を探すために本文を読み返しましょう。

前半にこの内容をつけ足すと記述が完成します。

[正答]
保育士から預かった時計を返さなかったことが後ろめたく、そのことが苦しい生活を送る自分の人生に悪影響を及ぼしている気がしたので、時計を返すことで過去を清算したかったから。

以下のような正答例も考えられます。参考になさってください。

[正答例]
売主の男性は時計を返さなかったことが自分の人生に悪い影響を与えていると感じており、保育士に時計を返さなかったことをずっと申し訳ないと感じていたから。

(問4)―線④「彼女もまだ、二十歳を過ぎたばかりだった」とありますが、この表現は保育士についてどういうことを意味していますか。

■(問われていること)を確認する
この問題で(問われていること)は「どういうこと」という部分です。
どういうこと」と問われている問題は言い換えの問題です。―線部の表現を具体的に言い方に換える問題であることをおさえておきましょう。


■(問われていること)にできるだけ短く解答し[記述の核]をつくる
[記述の核]をつくるためには、―線部「二十歳を過ぎたばかりだった」を言い換える必要がありそうです。この表現は、作者が何を伝えるための表現なのでしょうか。

本文(P8・16行目~)「自分の方こそ、園児に時計を預けるというのは、まったく軽率で、その後、彼がそのことを気にし続けていたと知り、胸が痛んだ」とあります。
この部分から「二十歳を過ぎたばかり」→「未熟さ」と捉えることができますね。この「未熟さ」を言い換えると[記述の核]を完成させることができます。

[記述の核] 幼い子どもに自分の大切にしている時計を預けてしまうほど未熟だったということ。


[記述の核]に文をつけ加え、記述を完成させる
[記述の核]に文をつけ加えるために、―線部「彼女もまだ」という部分を注意深く読んでいきましょう。「彼女は、二十歳を過ぎたばかりだった」ではなく「彼女もまだ、二十歳を過ぎたばかりだった」という文になっているのはなぜなのでしょうか。

〇副助詞「」の働き → 幼かった売主と同様に、保育士もまた未熟であったことを表している。
〇「まだ」の働き → 現在大人になっている保育士と比較して、未熟であったことを強調している。

このように考えると「彼女もまだ」という表現は「現在大人になっている保育士との対比」であると読みとることができるのです。

―線部や問題文を、一言一句を噛みしめるように読むことが重要です!

[記述の核]の前半に、「現在大人になっている保育士との対比」をつけ加え、記述を完成させましょう。

[正答]
保育士は今でこそ還暦を過ぎた分別のある大人であるが、当時はまだ若く、大切な時計を演じに預けるという軽率なふるまいをしてしまうほど未熟であったということ。

(問5)―線⑤「半年以上も壊れかけていた時計が、ようやくまた動き出した」とありますが、ここではどういうことを表していますか。本文全体をふまえて説明しなさい。

■(問われていること)を確認する
この問題で(問われていること)は「どういうこと」という部分です。
問4と同様に言い換えの問題であり、―線部の比喩表現を一般的な言い方に換える問題であることをおさえておきましょう。
また、「本文全体をふまえて説明しなさい」とあるので、後半の内容だけでなく、前半・中盤の内容をふまえて解答することが大切です。


■(問われていること)にできるだけ短く解答し[記述の核]をつくる
[記述の核]をつくるために、―線部の比喩の「時計がようやくまた動き出した」という部分を一般化すると、記述の結論部分(文末)を完成させることができそうです。
これは、夫婦の関係(時間)が再び進み始めたことを、比喩として「時計」に重ねていると考えることができます。「夫婦の関係が進み始めた」とは「夫婦の関係が改善されること」を象徴していると考えられますね。このことをふまえ、[記述の核]を完成させましょう。

[記述の核]
・夫婦の関係が良くなったということ。
・夫婦の気持ちが通い始めたということ。

記述問題は[記述の核]から考えることで、結論部分が明確になり、解答に一貫性とまとまりが生まれます。

[記述の核]に文をつけ加え、記述を完成させる
[記述の核]に文をつけ加えるために、―線部「半年以上も壊れかけていた時計が」という部分を一般化していきましょう。これは「悪化していた夫婦関係」を表していると考えられます。つまり、「悪化していた夫婦関係が改善していく過程」を、本文全体の内容をふまえて書いていくと記述を完成させることができます。

  • 天井裏から時計を見つけた
  • 売主が保育士に時計を返したことでたくさんの人が幸せになった
  • そのことについて夫婦で話し合った
  • 夫婦関係が改善した

上記の内容をまとめていきましょう。

[正答]
天井裏から出てきた時計とそれを取り巻く人々の喜びが亮一と聡実の心に残り、悪化した家族関係の中で久しく失われていた夫婦で語り合うゆとりある時間を取り戻したということ。

以下のような正答例も考えられます。参考になさってください。

[正答例]
亮一と聡実の関係は悪化していたが、天井裏から出てきた時計を売主に返したことで、多くの人が幸せになったことを夫婦で語り合い、すれ違っていた気持ちが通い始めたということ。


第1回・サピックスオープン(6年) 物語文まとめ

今回の物語はいかがでしたでしょうか。
東京でのストレスや、引っ越し後の不安定な暮らしから、家族の心がすれ違っていった様子が丁寧に描かれていました。特に、「壊れかけていた家族の関係」が、時計をめぐる出来事を通して静かに修復されていく過程は、とても印象深かったと思います。

今回の物語で、ぜひお子さんと話してみてほしいのが、「後悔」や「償いの気持ち」についてです。売り主の男性は、子どもの頃の小さな過ちをずっと心に引きずっていました。「昔、言いそびれてしまったこと」「謝れなかったこと」など、子どもたちにもきっと似た経験があるのではないでしょうか。

お子さんと、物語についてぜひ話し合ってみてください。

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